この日集まった陶遊会のみなさん。和気あいあい、とても楽しそうでした。
中村さんが陶遊会を発足させたのは、今から6年前のこと。知り合い関係に声かけをし、メンバーの数は約10名。
場所は、本格的な窯を備え、低料金で利用できる公共の施設を利用しています。編集部がお邪魔した日は、「窯入れ」(土を練り、成形した作品を窯で焼く)。この日も、中村さんを入れて5人の方が、朝早くから集まっていました。
会の全員の作品を窯に入れて、火を入れた後は、30分に一度、温度計をチェックし、ガス圧を調整して適温を保っていきます。そして焼き上がるまでおよそ半日。集まった方が施設の部屋でお話しなどしながら、時間になると窯のチェックに向かい、和気あいあいで一日を過ごしていきます。さらに、火を止めて、作品を取り出すのは翌日以降。
会の方に、陶芸は面白いですか?と訊ねると、「腹が立つ(笑)」とのお答えが。もう、かなりの腕前のようなのですが、「なかなかイメージ通りのものができなくて、がっかりする。自分に腹が立つ」のだとか。
編集部も陶芸に挑戦させていただき、作品を焼き上げていただいたのですが、完成品を目の前にして、喜びはひとしおでした。
食器や壺などを、土をこねて型作り、焼き上げて創り出すのは、感動的ですらありました。が、最初のことなので、完成品のイメージもありませんでした。
その面白さにはまっていき、腕が上がって作品がイメージできるようになってくると、今度はなかなかイメージ通りにはいかない……。非常に奥が深い世界であります。「腹が立つ」といいながら、どんどんはまっていってしまう、それが陶芸の魅力なのでしょう。
上/陶芸は、粘土を練ることから。写真は菊練りの様子。筋状の文様が入るように練り上げていきます。
下/ろくろを回して成形。粘土を成形する手がぶれないよう、ひじなどを体に固定するのがコツなのだそうです。
実際、陶芸で作品を創るプロセスを、中村さんに実演していただきました。
まず、素材選び。粘土にもさまざまな種類がありますが今回選ばれたのは、白御影というもの。これを粗練り、菊練りと、50回くらい練ります。TVなどで、陶芸で粘土をこねている姿は誰でも知っていますが、その目的が、「粘土の中の空気を抜き、焼いているときに割れたりしないようにする」のだと聞いて、納得。
次にろくろを回して形を創っていきます。
まず、水ひきといって、粘土に水を加えてこねます。これにより、粘土が均質になるそうです。なるほど、粘土が場所によって乾いたり湿ったりしていたのでは、焼いたときに割れたりしてしまいますものね。
中村さんの手の中で、粘土が壺状になったり、お皿状になったりと、みるみる形が作られていきます。ある程度、形ができたら、羊の革で縁をしめたり、弓といわれる工具で縁をけずったりしていきます。
こうして型作られた作品は、まず素焼きされ、そこから柚がけ(表面に上薬などを塗ること)。そうして本焼きされて、ようやく完成となります。
上/手慣れた手つきで、窯に作品を並べていく陶遊会の方。いろいろなプロセスを経てモノを創り上げていく「モノづくり」の楽しさが、そこにはあるようです。
下/まるまる一軒のお家を、作品展示用に。膨大な作品をもつ中村さんは、まさにプロ顔負けの、陶芸の「趣味の達人」です。
中村さんご自身が陶芸を始められたのは、今から16年前のこと。仕事の一線を退いた後、楽しめる趣味を身につけようと、抹茶茶わんづくりの本阿弥家16代目・光隆さんに指導を受けたのがきっかけだそうです。その後、学んだことを人に伝えることで、社会貢献をしたいという気持ちが強くなり、指導を始められたのだとか。
陶遊会以外にも、日本文化について学びたいという留学生を対象にした陶芸教室をボランティアで引き受け、来年で4回目になります。
「自分は芸術家ではないけれども、芸術家には手の出せないきめの細かい作品を創りたいですね。それを売るつもりはないけれども、新しいジャンルを拓いていきたいですね」(中村さん)
ご自宅とは別に、作品のみを展示する家をお持ちの中村さん。そこには所せましと、これまでの作品が展示してありました。その種類は、壺や食器のようなものだけでなく、土器やオルゴールなど工芸品のようなものまで、さまざまでした。
陶芸以外にも、韓国語を習ったり、男性専科の料理教室に通ったり、はたまた、千字文での書の練習や、土地を借りて梅の栽培をされたりと、中村さんの活動は多岐に及んでいます。「晴耕雨読」の生活が理想なのだそうです。
「ハレとケ」という言葉がありますが、毎日がハレといってよい現代の私たちの生活は、刺激が多すぎて、物事への感動もうすれがち。晴れた日には汗を流し、雨が降ったら家で読書に興じる、といったメリハリのある生活に、うらやましさも覚えます。
中村さん、充実した毎日から生まれる新たな創作を楽しみにしています。
陶芸以外の趣味として、お部屋で机に向かう千字文もやっておられる中村さん。「晴耕雨読」の毎日です。
ASJA(Asia Japan Alumni:アスジャ)・インターナショナルは、日本の外務省支援のもと、平成12年4月1日に発足した国際的な組織。主に、ASEANの留学生に対する支援事業を行っています。
その支援活動の一環として行っているのが、「日本文化の体験」研修であり、陶遊会の活動拠点でもある国立女性教育会館での研修合宿において、中村さんは陶芸制作の指導を行っているのです。
中村さんがアスジャの活動報告書に書かれておられることですが、参加留学生の感想を集約すると、「大変良い経験が出来た。高齢者の方々が熱心に私達に教えてくれた、そんな姿が素敵で感動した。これから一層勉学に励み、貴重な体験を積み、陶遊会の人達のように老後の人生に、趣味を持ち楽しめるようにしたい」日本文化に対する理解を深めてもらうと同時に、母国にいる彼らの両親にも思いを馳せる、そんな意義深い場となっているようですね。
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049-264-7345 広報担当 大塚佳代子