山本さんは、メーカーで長年の間、商品開発の仕事をされていましたが、現在は定年退職され、趣味のミニチュア建築物づくりを楽しんでおられます。
ミニチュア建築物に目覚めたのは、今から約25年前のこと。当時、山本さんは労働組合との団交窓口を担当していましたが、会社敷地内中庭の松の木を会社が切ったことに組合員が猛抗議するという事件があったそうです。
「建物拡張の工事のためだったのですが、会社は施設が充実して働きやすい環境になるのだから、木ぐらい、どうってことないだろうと考えたのですが、そうじゃなかった。『あの松の木が休み時間に憩いと安らぎを与えてくれていたのに、それを切るとは何事か!』というわけです」(山本さん)
この事件をきっかけに、「木は生き物で、人間にとって心の安らぎを与えてくれるものだ」と気づいた山本さん。木を材料に、何か作ってみようかと思われたそうです。.
「そういえば、自分の父親は船大工の棟梁だったなと。自分にも木工細工ができるんじゃないかと思ったんです」(山本さん)
商品開発という仕事がら、図面を引くのはお手のもの。寺社やお城を観て「これを作りたい!」という想いが高じたら、再びそこを訪れ、何百枚と写真を撮って、それをもとに設計図を起こし、マッチ棒や割りばし、段ボール、焼き鳥の串…といった身近な材料で、そのミニチュアを作るようになったのだそうです。
山本さんは、現実を忠実に再現することに徹底的にこだわります。本物の設計図さながらに詳細な図面を引き、外観だけでなく中まで忠実に再現していきます。
「図面を引くのに3カ月。材料を集めるのに1、2カ月。一つを完成させるまでに、1年から1年半くらいはかかりますね」と山本さん。これだけの力作だけに、腰を据えて取り組むようになったのは、定年退職後。もともと応接間だった部屋を作業場にして、朝から夜遅くまで、黙々とミニチュア作りに励んでおられるそうです。
「家内には、『いい加減にしなさい』とよく怒られています」(笑)。
ところが、これだけの労作なのに、惜しげもなく人に謹呈してしまうのだとか。
「いくつも取っておいても、いずれは倅たちに捨てられてしまうんだろうし。ミニチュアを作るとき、住職さんなどに『どうなっているか、見せて下さい』とお願いするんです。すると、親切に中を案内していただける。それがありがたい。そのご厚意に感謝して、出来上がったものを差し上げるんですが、さらに喜んでいただけるんですな。それがうれしい。私は、『ここはどういう風に再現しようか』などと想像・発想しながら作っていくのが楽しい。そうして出来上がったものが、人様を喜ばせることができる。そこでまた、『今度は何を作ろうか』と創作意欲が湧いてくるんです」と、山本さん。一分の隙もない精巧さに、観る人は心を打たれます。
山本さん、これからも元気に、感動を与える作品を作り続けて下さい。
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