ひと口にすき焼きといっても、東西で料理の仕方が違うのは有名な話です。
西では、まず肉を焼いて、それから野菜や豆腐、白滝などを入れて煮込む鍋料理。これに対し、私たちの住む埼玉を含め、東では肉も一緒に割り下で煮込んでいきますね。「焼き」という文字が入っているのに焼かないのが東のすき焼き。子どもの頃、変だな、と思った人もきっといらっしゃると思います。
しかし、東でも高級店などに行くと、仲居さんが西のすき焼きの作法で調理する様をよく見かけます。これは、西の方が高級な食べ方をしているということではなく、肉のうまみを堪能できる食べ方だから。
すなわち、あま辛い割り下で煮込んでしまうと、肉本来の味を堪能するというわけにはいきませんね。そこで肉だけを軽く味付けして焼いて、まずは肉だけを食べる西のすき焼きの作法が採り入れられていることが多いというわけなのです。
材料や調味の仕方は、東西共通。ご自宅でも、このすき焼きの食べ方ならいつもと違った趣を味わえるはず。ふだんよりいいお肉を、ふだんよりたっぷりと用意して、まずは肉のうまみを堪能してみましょう。豊かな気分に浸れること、間違いなしです。
まずは、牛脂で鍋底に油を敷き、肉だけを入れてさっと火を通します。肉の前に長ねぎを入れていため、その後、肉を入れると長ねぎの香りがついて、さらに風味豊かにいただけます。
そしていよいよ味付け。砂糖をさっと振りかけて、醤油をかけるのが関西風。割り下を使う関東風なら、砂糖+醤油の代わりに、割り下をさっとかけてもかまいません。しっかり火が通ったら、溶き卵にからめていただきましょう。
この食べ方、肉は肉で焼いて食べ、野菜などは煮て別に食べる、というわけではもちろんありません。肉を堪能したら、野菜などを加えて、後はふだん通りにいただきます。
ちなみに、稀代の美食家・魯山人は、酒飲みのすき焼きには砂糖を加えないと書き残しています。たしかに、甘さを抑えた方が、お酒は進むかもしれません。砂糖の量はお好みで調整するとよいでしょう。
これはウンチクですが、もともとすき焼きとは、この関西風の食べ方の料理のことを指していたようです。ご存じの方も多いでしょうが、文明開化当時の関東風のすき焼きは、「牛鍋」という名前だったのですね。よく似たこの牛鍋が、次第に関西と同じすき焼きの名前で広がっていったのだそうです。