鈴木さんは、おばあちゃん、ご夫婦、3人のお子様の、合計6人家族。冒頭で述べた通り、前のお宅はじつに86歳(偶然ですが、おばあちゃんと同い年!)。すきま風が入ってくるなど、さすがに不具合が出始めていて、ご主人を除く全員が、「早く建て替えよう」とおっしゃっていたそうです。しかし、ご主人だけは、重い腰を上げようとしなかったのだとか。
「家を建てるのは、一生に一度のことというが、代々農家をやってきたウチの場合、二代、三代に一度のことだから」と、ご主人。ずっと首を縦に振らなかったご主人が、家を建て替えると言ったことに、「えっ、という感じでしたよ。どういう心変わりだったんでしょうね」と言う奥様。「観念したんだよ」と笑う鈴木さんですが、その責任の重大さに、慎重にならざるを得なかったのでしょう。建て替えると決めたら、そこからは、使用する材木、玄関の壮重さ、和室の彫刻欄干など、「長く住まう家だから」と、細部にまでこだわった、「和」モダニズムの家が出来上がりました。
「やはり農家だから」
おばあちゃんがこだわったのは8畳×2の続き間。親族やご近所の集まりなど、ふすまを空けて広がる大空間は、農家にはやはり必要なのだとか。縁側ごしに、庭の緑を楽しめる陽当たりのよいお部屋となっています。
また、奥様は、カウンター式のキッチン。
「台所に立っていて、家族の顔が見られるように。炊事や洗い物をしているとき、一人だけ背中を向けているのは、やはり寂しいですよね」
そして、2階にはお子様1人1室の洋室が3部屋。お子様はみなさん、すでに学校を出て社会人となっていますが、「自分の部屋がほしい」と、学生時代から言い続けて、ようやく手に入れたものなのです。もっとも、「どうせ建て替えるなら、もっと早く欲しかった」とおっしゃっているそうですが。
鈴木さんご一家に、新しいお宅のご感想を伺うと、みなさんが、「大満足」。
それもそのはず、外観は伝統の趣を重視した「和」住宅ですが、中身は現代ならではの「快適」さでいっぱい。例えば、壁には吹付断熱材が使用されており、「冬あたたかく、夏涼しい。暖房も冷房もいらない」のだとか。
「めったに建て替えるものではないから、せっかく建て替えるなら、気に入った、本当によいものを」と、8畳2つの続き間の欄間に、見事な装飾を採り入れたり。キッチンのカウンターの下に、奥様が花嫁道具として持参した愛着のある収納棚の脚を切って、作りつけのようにぴったりと収めてあるとか。居間は掘りごたつになっていて、ゆったりっくつろげるとか…。
ご家族全員にとって居心地のよいかけがえのないお宅を拝見して、「お宅はやはり、ご家族の絆」と改めて感じたびさいど編集部でした。
所在地/川越市上戸
完成/平成18年6月
設計・施工/近藤建設
鈴木様との最初の出会いは、知人の方からのご紹介。建て替え賛成派のご家族に対し、ご主人が慎重でいらっしゃったので、「建て替える」とおっしゃったときは、私も驚いたのを覚えております。しかし、それだけ大きな決断をされたわけですから、ご要望にお応えできるお宅となるよう、全力でお手伝いさせていただきました。8畳間の欄間など、見本をいくつかお見せしたのですが、最終的には、鈴木様ご自身が注文して職人に作らせたもの。細部まで一緒に考えて出来上がったお宅なので、その一つ一つが強く私の頭にも残っています。そして、今のお宅にご満足いただけ、私としても大変うれしく思っております。